京都府

稲住神社

〒600-8855 京都府京都市下京区梅小路石橋町97−1

稲住神社は、京都駅の西、梅小路の住宅地に鎮座する小さな社です。安倍晴明公を「日本における天文暦学の始祖」として祀り、江戸時代に晴明公の子孫・土御門家が屋敷と天文台を構えた土御門邸跡の一角に、その記憶をとどめています。

由来・伝承

境内の由緒書によれば、このあたりは明治以前、池のある広場で、近くの農家が稲束を積んでいたことから「稲積」と呼ばれ、それが転じて稲住の社名になったと伝わります。御祭神は晴明公。晴明公を呪術の人としてではなく、天文と暦の学問を日本に打ち立てた始祖として祀るところに、この社の性格が表れています。

梅小路八条の一帯は、江戸時代、陰陽道宗家として朝廷に仕えた土御門家の屋敷地でした。応仁の乱ののち若狭・名田庄に拠っていた土御門家は、久脩の代に徳川家康に召されて京都へ戻り、梅小路村に所領を与えられてこの地に屋敷を構えたと伝わります。由緒書は、一町四方の邸内の北側が住居、南側が祭場で、祭壇・本宮・権殿などの建物が並び、天皇の御即位ごとに聖寿の長久を祈る天曹地府祭が営まれたと記します。『日本歴史地名大系』も、御前通八条の北西角に南北四十五間・東西五十間余の土御門屋敷があり、邸内の東南隅に天文台が置かれていたことを、小矢野家文書によって伝えています。

天文台の記憶は、この地の由緒の核心です。由緒書は、貞享元年(1684年)に幕府天文方・渋川春海が貞享暦を作った際、陰陽頭・土御門泰福とともにここに星台を築き、渾天儀で天体を観測してその正確さを証したと記します。さらに宝暦の改暦にあたっては、土御門泰邦(1711〜1784年)が邸内に独自の天文台を整え、観測の拠点としました。渾天儀を据えた台石は隣接する円光寺の庭に、日時計の役割をした大表の台石は菩提寺の梅林寺に、いまも残っています。土御門家の祖である晴明公を祀る社がこの地にあるのは、こうした由縁によるものです。

見どころ

境内は住宅に囲まれたごく小さなもので、本殿のほかに、覆屋の中に古い木の切り株を祀る「魔王尊」の小祠があります。この祠は本殿に対して斜めに建てられ、その向きが京都の鬼門にあたると参拝者の間で語られますが、由緒書に説明はなく、稲住神社との関係は伝わっていません。祭日は十一月十六日前後の日曜日と定められています。すぐ南の梅林寺は土御門家の菩提寺で、代々の墓碑と大表の台石を伝えますが、一般公開はされていません。

アクセス

所在地
京都市下京区梅小路石橋町97-1
参拝
境内自由。参拝料なし
電車
JR「西大路」駅から徒歩約10分。JR嵯峨野線「梅小路京都西」駅から徒歩約12分
徒歩圏
円光寺・梅林寺は隣接。鎌達稲荷神社まで南へ徒歩約8分

住宅地の中の社です。近隣に配慮し、静かにお参りください。円光寺・梅林寺は非公開のため、境内への立ち入りはできません。

周辺の関連スポット

  • 円光寺(隣接)——土御門邸の天文台跡に建つ寺。庭に渾天儀の台石が残ります。
  • 鎌達稲荷神社(南区・西寺跡)——土御門家の鎮守社と伝わる古社。もとは梅小路の土御門邸の東方にあり、明治期に遷座しました。
  • 天社土御門神道本庁(福井・名田庄)——土御門家が陰陽道宗家として祭祀を伝える本庁。土御門家が応仁の乱後に拠った地です。
  • 晴明神社(上京区・堀川一条)——晴明公の屋敷跡に創建された晴明信仰の中心。

この地に邸を構えた土御門家が応仁の乱後に若狭・名田庄へ移り、陰陽道宗家として江戸を経て現在に至るまでの流れは、読み物「安倍晴明の子孫は現在どこに?——土御門家のゆくえ」で公文書と公式由緒から整理しています。

よくある質問

稲住神社と晴明神社はどう違うのですか。
晴明神社は晴明公の屋敷跡(堀川一条)に晴明公の御霊を祀る神社です。稲住神社は、江戸時代に子孫の土御門家が屋敷を構えた梅小路の地に、土御門家の祖・天文暦学の始祖として晴明公を祀る社で、規模は小さく、社務所や授与所はありません。
土御門家の天文台の跡は見られますか。
渾天儀の台石は隣の円光寺、大表の台石は梅林寺の庭にありますが、いずれも一般公開されていません。稲住神社の由緒書に、邸内の配置や貞享の観測のことが記されています。
「稲住」は何と読みますか。名の由来は。
「いなずみ」と読みます。近隣の農家が稲束を積んだ「稲積」が転じたものと由緒書は伝えており、晴明公や陰陽道に由来する名ではありません。

出典・参考

  • 稲住神社 境内由緒書(御祭神・社名の由来・土御門邸と天曹地府祭・貞享の観測・祭日)
  • 『日本歴史地名大系27 京都市の地名』(平凡社)「梅小路村」の項(土御門屋敷の規模と天文台)
  • 渡辺敏夫『近世日本天文学史 下』(恒星社厚生閣)「京都梅小路天文台」の項(宝暦改暦と台石)
  • 京都府立図書館 レファレンス事例「京都にあった梅小路天文台の場所を知りたい」(国立国会図書館 レファレンス協同データベース)

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最終更新:2026年8月30日

御祭神
安倍晴明卿(天文暦学の始祖として)
鎮座地
土御門家 梅小路邸跡の一角
祭日
十一月十六日前後の日曜日
参拝
境内自由・参拝料なし
所在地
〒600-8855 京都府京都市下京区梅小路石橋町97−1
地図
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