猫又の滝
猫又の滝は、田辺市龍神村殿原(とのはら)、龍神村と中辺路町の境にそびえる笠塔山(かさとうざん、標高1,049メートル)の山麓に懸かる小さな滝です。平安時代、里人を苦しめた笠塔山の妖怪を、安倍晴明公が三日三晩の護摩でこの滝壺に追い込み、岩に梵字を刻んで封じたと伝わります。殿原の安倍晴明社から笠塔大橋を渡ってすぐの谷にあり、晴明伝説の舞台の中心をなす滝です。
由来・伝承
殿原の「安倍晴明所縁の地碑」に添えられた案内板は、『龍神村誌』下巻「民俗誌」を引いてこう伝えます。平安時代の寛和年間(985〜987年)、殿原字谷口の庄司・新九郎のもとに晴明公が立ち寄った。そのころ神山(笠塔山)には妖怪が出没し、里人や通行人に危害を加えていた。晴明公は住民の難儀を見かねて山に登り祈祷に伏したが、妖怪はたちまち大雨を降らせた。そこで晴明公は己の杖を柱に、笠を屋根とみなして堂の代わりとし、三日三晩護摩を焚いて妖怪を猫又滝に追い込み祈り伏せた。滝の岩に梵字を刻み、この字が消えぬうちは滝壺から一歩も出ることを許さんと告げて山を下りた。その後、山は笠塔山と呼ばれ、近隣には晴明公ゆかりの地名や伝説が残った——。和歌山県の振興局が刊行した伝承ガイドと、和歌山県観光連盟の「わかやま歴史物語」も、同じ物語を紹介しています。
笠塔山の怪異は、大正初期に南方熊楠が「紀州俗伝」に書き留めています。この山には「馬の馬場」といって長さ五、六十間、幅四、五間の馬場のような平坦な道があり、人が手入れをしないのに草木が生えず、誰も乗らない白馬がしばしば現れて駆けていく。また「木偶の茶屋」といって、人が野宿すると夜中にたちまち小屋が立って人形芝居が盛んに催され、夜が明けると忽然と消え失せる所がある。晴明公がここに来て笠を樹に掛け、塔に擬して祈ってから、その怪は長い間止んだという——。笠を塔に見立てて祈ったという熊楠の記録は、山の名の由来を語る村誌の伝承と響き合っています。
見どころ
殿原の安倍晴明社の前を過ぎ、丹生ノ川に架かる笠塔大橋を渡って六百数十メートル進むと、路肩に滝の案内板があります。滝入口の駐車スペースから河原を遡ること五分ほどで、木々に覆われた暗がりに静かに落ちる滝に着きます。晴明公が刻んだと伝わる梵字を探しながら滝壺を見つめれば、封じられた妖怪の物語が身近に感じられるでしょう。笠塔山の南斜面にはモミやツガの原生林が広がり、国有林として保護されています。谷全体が晴明伝説の舞台で、殿原には晴明の井、晴明の淵、晴明転がしといった地名も伝わります。
アクセス
- 所在地
- 和歌山県田辺市龍神村殿原(笠塔山山麓)
- 見学
- 自由
- 車
- 阪和自動車道「南紀田辺IC」から約1時間。安倍晴明社前から笠塔大橋を渡り約650メートル、滝入口に駐車スペース約3台。駐車場から滝まで河原を徒歩約5分
- 問い合わせ
- 龍神観光協会(0739-78-2222)
滝までは河原を歩きます。足元に注意し、増水時は立ち入らないでください。周辺は道幅の狭い区間があり、公共交通機関の便はよくありません。
周辺の関連スポット
- 安倍晴明社(田辺市龍神村殿原)——妖怪を封じた晴明公を里人が祀った、和歌山県内唯一の晴明公の社。笠塔大橋のたもと。
- 安倍晴明の腰掛け石(田辺市中辺路町野中)——那智へ向かう途中の晴明公が腰を下ろし、山崩れを止めたと伝わる石。
- 晴明の蛭伏石(田辺市本宮町皆地)——血を吸う蛭を石の下に伏せて鎮めたと伝わる石。
よくある質問
- 猫又の滝と安倍晴明にはどのような関係がありますか。
- 笠塔山に出没して里人を苦しめた妖怪を、晴明公が杖を柱に笠を屋根として三日三晩護摩を焚き、この滝壺に追い込んで祈り伏せ、岩に梵字を刻んで封じたと伝わります。
- 滝まで歩いて行けますか。
- 滝入口の駐車スペースから河原を徒歩約5分です。足元が悪いので歩きやすい靴でお出かけください。増水時は危険です。
- 笠塔山の名前の由来は何ですか。
- 晴明公が笠を屋根(塔)に見立てて祈祷したことから笠塔山と呼ばれるようになったと伝わります。南方熊楠も「紀州俗伝」で、晴明公が笠を樹に掛け塔に擬して祈ってから山の怪異が止んだと記しています。
出典・参考
- 現地案内板(安倍晴明所縁の地碑、『龍神村誌』下巻「民俗誌」より。寛和年間の来訪、笠塔山の妖怪、猫又滝への封じ込め、梵字)
- 和歌山県 日高・西牟婁・東牟婁振興局「癒しの国の妖しの物語〜熊野への聖地巡礼〜」(平成27年3月。「笠塔山、猫又滝」「晴明淵」の項)
- わかやま歴史物語「072 大陰陽師・安倍晴明 紀南に残された伝承の地」(和歌山県観光連盟。伝説の紹介、駐車場約3台)
- 和歌山県公式観光サイト「安部晴明社」(南紀田辺ICからの所要時間)
- 南方熊楠「紀州俗伝」(『郷土研究』大正2〜3年、『南方随筆』所収。笠塔山の馬場・白馬・木偶の茶屋、笠を塔に擬した祈祷)
- 山と溪谷オンライン「笠塔山」(標高1,049メートル、原生林と国有林)
社寺・関係者の方へ:掲載内容の訂正、写真のご提供、取材・掲載のご相談はお問い合わせからお願いいたします。
最終更新:2026年8月31日
- 伝承
- 晴明公が笠塔山の妖怪を滝壺に封じ、岩に梵字を刻んだ(『龍神村誌』下巻)
- 山
- 笠塔山(標高1,049メートル、龍神村と中辺路町の境)
- 史料
- 南方熊楠「紀州俗伝」に笠塔山の怪異と晴明公の祈祷の記録
- 見学
- 自由(駐車スペース約3台、河原を徒歩約5分)
- 所在地
- 〒645-0413 和歌山県田辺市龍神村殿原
- 地図
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