京都府

鉄輪の井戸

〒600-8079 京都府京都市下京区堺町通松原下る鍛冶屋町251

鉄輪の井戸は、下京区鍛冶屋町の路地の奥にひっそりと残る伝説の井戸です。夫を恨んで貴船に丑の刻詣りをした女の物語を描く謡曲『鉄輪』では、安倍晴明公が祈祷によってその呪いを退けます。井戸は、その女が住み、身を投げたと伝わる場所です。

由来・伝承

謡曲『鉄輪』は作者不詳の四番目物で、宇治の橋姫伝説を下敷きにするとされる能です。都の女が、自分を捨てて後妻を迎えた夫を恨み、夜ごと貴船の社へ丑の刻詣りを重ねます。社人が夢のお告げを伝えます——赤い衣を着て顔に丹を塗り、頭に鉄輪(三本足の五徳)を載せて足に火を灯し、怒りの心を持ち続ければ、望みどおり鬼になれる、と。女は人違いだと言いながらも、聞くうちに髪が逆立ち、鬼の相となって駆け去ります。一方、下京に住む夫は悪夢に悩んで晴明公を訪ねます。晴明公は、女の恨みによって夫婦の命が今夜にも尽きると占い、夫の家に祈祷棚を設け、夫婦の形代を置いて祈祷を始めます。そこへ鉄輪を戴いた鬼女が現れ、後妻の形代を打ち、夫を取ろうと迫りますが、神々の力に退けられ、「時節を待つ」と言い残して消えていきます。晴明公が呪いを祓う側として登場する、古典の中でもよく知られた一曲です。

京都市の案内によれば、鍛冶屋町にはこの謡曲より古くから「鉄輪塚」と呼ばれる塚と井戸があり、貴船へ丑の刻詣りをした女が満願を前に志を遂げられず、このあたりで亡くなって葬られた塚、そして身を投げた井戸だと語り継がれてきました。井戸の水を汲んで相手に飲ませれば悪縁が切れるという俗信から「縁切りの井戸」とも呼ばれ、町が「鉄輪町」と呼ばれた時期もあったといいます。謡曲が夫の住まいを「下京」とすることも、この伝承と重なります。

寛文八年(1668年)、町衆は伏見の稲荷本宮から命婦稲荷大明神を勧請し、鍛冶屋町の守護神として祀りました。明治十年(1877年)の府令で市中の小祠が廃されると社は閉じられ、いったんは忘れられましたが、昭和十年(1935年)八月に御神体が町内の蔵から見つかり、町民の手で同年十一月に現在地へ再建されました。その工事で掘り出された「鉄輪」の碑を御神体として祀ったのが、井戸の傍らに立つ鉄輪社です。井戸もこのとき霊泉として整えられました。

見どころ

堺町通に面して「鐵輪跡」と刻んだ石碑が立ち、その脇の、個人の表札が掛かる格子戸が入口です。戸を開けて路地を十メートルほど進むと、正面に命婦稲荷社の小さな社、右手に鉄輪社、その手前に鉄輪の井戸が肩を寄せ合うように並んでいます。井戸は屋根と金網で覆われ、水はすでに枯れていますが、傍らに由来を記した札が置かれ、いまも訪ねる人が絶えません。路地は住民の生活の場でもあります。声を落とし、日没後の訪問は控えてください。

アクセス

所在地
京都市下京区堺町通松原下る鍛冶屋町
見学
路地内・無料。井戸の水は汲めません
地下鉄
烏丸線「五条」駅から徒歩約7分、「四条」駅から徒歩約12分
私鉄
京阪「清水五条」駅から徒歩約9分。阪急「烏丸」駅から徒歩約12分

井戸と社は民家に囲まれた敷地内にあります。入口の戸は日没後に閉められることがあります。撮影や談笑は最小限に。

周辺の関連スポット

  • 一条戻橋(上京区・堀川一条)——晴明公が式神を潜ませたと伝わる橋。『平家物語』剣巻の鬼女の逸話は、『鉄輪』と同じ橋姫の系譜に連なります。
  • 晴明神社(上京区・堀川一条)——晴明公の屋敷跡に創建された晴明信仰の中心。

よくある質問

鉄輪の井戸はどこにありますか。見つけにくいと聞きました。
堺町通松原下るの西側、「鐵輪跡」の石碑が立つ格子戸の奥です。表札の掛かる戸を開けて路地を進んだ突き当たりに、命婦稲荷社・鉄輪社・井戸が並んでいます。住民の生活動線ですので、静かに訪ねてください。
謡曲『鉄輪』で安倍晴明は何をするのですか。
悪夢に悩む夫を占い、先妻の恨みによって今夜にも命が尽きると告げます。そして夫の家に祈祷棚を設け、夫婦の形代を置いて祈祷し、現れた鬼女を神々の力で退けます。
井戸の水を汲むことはできますか。
できません。井戸は枯れており、金網で覆われています。「縁切り」は江戸時代から語り継がれてきた俗信で、井戸の由来を伝えるものとして受け止めてください。

出典・参考

  • 謡曲『鉄輪』(作者不詳・四番目物。貴船の神託、晴明公の祈祷と形代、鬼女の退散)
  • 京都市公式 京都観光Navi「命婦稲荷社」(鉄輪塚と井戸の伝承、命婦稲荷の勧請と再建、鉄輪社の由来、アクセス)
  • 現地の由来書「鉄輪ノ井」(縁切りの俗信、昭和十年の整備)
  • 『平家物語』剣巻(橋姫伝説)

社寺・関係者の方へ:掲載内容の訂正、写真のご提供、取材・掲載のご相談はお問い合わせからお願いいたします。

最終更新:2026年8月30日

種別
井戸・小祠(命婦稲荷社境内)
古典
謡曲『鉄輪』(作者不詳)
沿革
寛文八年(1668年)命婦稲荷勧請/昭和十年(1935年)再建・鉄輪社創祀
見学
路地内・無料(住民の敷地内)
所在地
〒600-8079 京都府京都市下京区堺町通松原下る鍛冶屋町251
地図
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